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ストーリー

被災地からのリスタート

2012年4月22日、東北2部南リーグの開幕戦。 コバルトーレ女川は1年ぶりにピッチへ戻ってきました。 長いようで短い、短いようで長い道のりでした。

「1年間の活動休止」

東日本大震災から1ヶ月が経過した2011年4月10日、コバルトーレ女川はチーム存続の危機と直面していました。女川が壊滅的な打撃を受け、町はがれきで埋め尽くされた状態。とてもサッカーどころではなく、誰も復興の希望を見いだせない日々が続いていました。

しかし、コバルトーレ女川は地域のために存在するクラブ。「町の人たちが大変な状況だからこそ、チームとして出来ることがあるのではないか」。それは子供たちを元気にさせることであり、町の人に再びサッカーをしている姿を見てもらうことかもしれない。それならばやれるだけやって前を向いて倒れよう、覚悟は固まりました。

「来年、必ず活動を再開します」

そう誓って、チームは1年間の活動休止をし、女川町の支援活動を行う決断をしました。

女川に残ったトップチームの選手は復興支援活動を行いながら、まず地域の子供のサッカー活動を再開することを考えました。それを支えたのが、日本各地、そして海を超えて届けられた支援でした。津波で流されてしまったサッカー用具や、活動に必要な資金は、世界に広がるサッカー仲間からの応援で補うことができ、震災1ヶ月後には子供たちのサッカー活動が再開されました。

また、トップチームの練習も、女川の人たちの力強い後押しがあって、2011年9月から再開することができました。多くの人に支えられてサッカーができる環境が整ったからこそ、チームとして目指す方向がはっきりしました。女川の町からサッカーの火を絶やしてはいけない。

「コバルトーレ女川の復活」

冒頭の開幕復帰戦。選手たちはそれぞれの1年間を振り返りながら、一歩一歩ピッチを進みました。震災後、サッカーを忘れて支援活動に走り回った日々、サッカーをしていいのかどうか葛藤し続けた日々、町の人に背中を押されて練習を再開した日々、、。見上げるとスタンドには実に500人以上の観客が集まってくれていました。この1年間を、町の人たちはしっかりと見てくれていたのです。

選手の1人は、ピッチ上で涙を抑えることができませんでした。震災後一度も見せなかった涙がこの時溢れ出てきたのです。

その声援に包まれるピッチで、選手たちは躍動しました。序盤から勢いよく攻め込み、対戦相手のパラフレンチ米沢を圧倒し、ホーム開幕戦を見事に5-0で勝ち取りました。

試合後、観客席に挨拶に行くと、そこは歓喜の笑顔で満たされていました。震災後、これだけ多くの笑顔が一つの場所に集まったのは、はじめてのことでした。また、そこには震災後に様々な事情で女川を離れざるを得なかった人たちの姿もあり、町が再び一つになった瞬間でした。

女川に笑顔を取り戻し、町の人たちがつながる場となった、コバルトーレのあるべき姿を示すことができた復活戦となりました。しかし、チームにとってこれは本当の意味での始まりに過ぎません。コバルトーレ女川はようやくリスタートしたばかりなのです。

歓喜の余韻が残るピッチには、一筋の光が差し込んでいました。
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